前回の続きです。
詐欺や騙し関連のニュースが毎日のように放送されていますね。ある調査によると私たちは1日に約2回は嘘をついているようです。そんな自覚はないかもしれませんが・・。また、就職の面接においては応募者は平均約2回は嘘をついてい[…]
連日のように詐欺や騙しのニュースが流れていますが、一向に減る余地がなさそうです。
これには理由があるのです。
前回の記事にあるようにそもそも嘘と真実を見分けることに関しては、私たちは絶望的と思えるくらい苦手としているようです。
それがたとえプロであっても。
それでは、虚偽を見抜くことは永遠にできないのでしょうか。
善良な人はいつも騙され続けなければいけないのでしょうか。
実は、無意識思考を使うことで解決できるのです!
虚偽判断を難しくしている要因はこれです↓
- 決定的な手がかりがない
- 意識的な情報処理の制約
- 誤った観念を使ってしまう
- トップダウン処理をしてしまう
なぜ無意識思考を使うことで解決できる可能性があるのでしょうか。
解説します。
虚偽判定では”意識的な思考”に頼っている
嘘と真実を見分けようとするとき多くの人はじっくり考えます。
言葉や態度などを吟味して嘘か真実かを判定しているのです。
これまでの虚偽判定の研究も同様です。
虚偽判定を目的とした研究では、被験者に「じっくりと考える」という意識思考(論理的思考や熟考ともいう)をするよう促しています。
パッと見、直観で判断すると騙されそうですが、じっくり考えることで嘘を見抜けるようになるという理屈です。
ですが、これが落とし穴なのです。
意識思考をすることによってかえって虚偽判断の質を低下させてしまっているのです。
理由を説明します。
無意識思考には情報量の制約がない
以下の説明はこちらの記事でも解説していますので併せてお読みください↓
思考には3つの種類があることを知っていますか? まずは「直観」、2つめは「論理的思考」、そして「第3の思考」とも呼ばれる…
意識思考には情報量の制約が働きます。
マジカルナンバー7のように一定の情報量しか扱うことができません。
しかし、無意識思考は意識思考とは比較にならない情報量を扱うことができると科学的に検証されています。
虚偽判断に関する有効な手がかりを使うことが可能
虚偽判断を難しくしている理由の一つに誤った観念を使ってしまっていることにあります。
さらに虚偽判断には決定的な手がかりがないことも問題でした。
しかし、無意識思考にはこれらの問題を解決できるのです。
意識思考が苦手としているのは”重みづけ”です。
つまり、適切な情報を適切に評価することができないのです。
例えば、嘘を見抜くにあたって重要なのは話の内容なのにもかかわらず、服装や見た目といったものを重要視してしまうことが挙げられます。
それによって、「見た目が小ぎれいだから信用できる」と誤った判断を下してしまうのです。
(詐欺師ほど立派な服装をしているといわれます)
もっともらしいもの、言語化しやすいものに重きを置いてしますのです。
ところが、無意識思考はこれらの重みづけのエラー(間違い)を引き起こすことがありません。
そのため、先入観などに影響されることがなくなります。
それによって、重要な判断材料などを見逃さずに使用することができるようになり適切な判断を下せるようになるのです。
無意識思考はボトムアップ処理
意識思考はトップダウン処理なのに対して無意識思考はボトムアップ処理をします。
つまり、意識思考はステレオタイプな情報に惑わされてしまうわけですね。
これが虚偽判断を難しくしている理由です。
一方、無意識思考では時間はかかるもののバイアスのかからない情報処理を行ないますのでより正確は判断ができるようになるのです。
ちょうどこの時期を書いているときに、「オリンピック委員会の会長職」の問題が噴出しています。
男尊女卑とか、会長=男性のように日本では男性を中心とした社会があって未だに尾を引いているという話です。
まさにこれなんかもそうです。
会長を選ぶということのステレオタイプが会長職=男性ということになってしまっているのです。
意識思考で選ぶとこうなります。
無意識思考で選ぶでこうはならないのですが、この話は別記事にしたいと思います。
これらを踏まえ、研究者らは次のように仮説を立てたのです。
- 無意識思考は情報容量の制約がないために虚偽判断のような情報量の多い意思決定では良い判断が下せる
- 意識思考では、バイアスのかかった判断をしがちであるが、無意識思考ではバイアスのかからない選択が可能
つまり、無意識思考を使って判断させた方が、従来の研究のように意識思考を使う場合より良い選択ができると考えたのです。
この仮説を検証するために研究者らは次の実験を行いました。
実験(1):インターンシップについて真実か作り話かー嘘を見抜く
スーツを着た大学生が、自分が参加したインターンシップに関して語る動画を被験者たちに8パターン見てもらいました。
それぞれの動画では、
「インターンシップの内容」
「インターンシップの好きな点/嫌いな点」
について語られました。
実は、本当に参加したインターンシップの内容についてありのまま真実を語っている人とあたかも参加したことがあるかのように作り話をしている人がいたのです。
真実を語っている動画も嘘を語っている動画も同じ長さになるように調整されています。
さらに、8種類の動画のうち真実の動画と嘘の動画がどれくらいの割合で混ざっているか被験者には知らされていませんでした。
被験者は3つの思考条件に割り当てられました。
- 直観条件・・・動画の視聴前に嘘を語っている人がいることを説明してから、視聴後すぐに虚偽判断をしてもらう
- 意識思考条件・・・動画の視聴後に、嘘を語っている人がいることを説明し、3分間じっくり考えたあと、虚偽判断をしてもらう
- 無意識思考条・・・動画の視聴後に、嘘を語っている人がいることを説明し、別の関係のないパズル課題を3分間やってもらってから、虚偽判断をしてもらう
その結果がこちらです。
なんと無意識思考条件が飛びぬけた正確性を示したのです。
つまり、無意識思考を使ったことでより正確な虚偽判断ができるようになったのです。
研究者の仮説は支持されることになりました。
でも、一つだけの実験結果では納得がいきませんよね。
研究者らは引き続き実験を行いました。
実験(2):好きな映画・テレビ番組についてー嘘を見抜く
今度は被験者に好きなor嫌いな映画・テレビ番組を題材として取り上げました。
そして、2つの実験材料を用意しました。
1つ目は、好きなor嫌いな映画・テレビ番組について、ありのまま語ってもらう映像を作成しました。
2つ目は、好きなor嫌いな映画・テレビ番組について、嘘を語ってもらう映像を作成しました。
嘘を語ってもらうととは、好きな映画・テレビ番組についてあたかも嫌いであるかのように振る舞ってもらうということです。
逆に、嫌いな映画・テレビ番組についてはあたかも好きであるかのように振る舞ってもらいました。
つまり、一つ目の映像の方は、真実を語っており、2つ目の映像の方は嘘を語っていることになります。
それから、実験(1)と同じく別の実験参加者に映像の虚偽判定してもらいました。
被験者は真実と嘘の映像が混在した4種類の映像を見て判断しました。
思考条件などは実験(1)と同じです。
- 直観条件・・・動画の視聴前に嘘を語っている人がいることを説明してから、視聴後すぐに虚偽判断をしてもらう
- 意識思考条件・・・動画の視聴後に、嘘を語っている人がいることを説明し、3分間じっくり考えたあと、虚偽判断をしてもらう
- 無意識思考条・・・動画の視聴後に、嘘を語っている人がいることを説明し、別の関係のないパズル課題を3分間やってもらってから、虚偽判断をしてもらう
その結果です。
実験(1)と同様に他の条件と比較して無意識思考条件が極めて高い虚偽検出を示したのです。
補足事項
嘘を効果的に見抜くためには無意識思考の活用の必要性を述べてきました。
しかし、いくつか疑問が浮かんでくるかもしれません。
例えば、
- 直観条件では、動画視聴前に虚偽があることを示したために動画を見ている間に証拠集めをしたのではないか
- 直観条件とはいっても、虚偽判断をする直前にほんのわずかでも考えて判断したのではないか
- 無意識思考条件では、無意識の思考が起こっているのではなく単に気を逸らされてまた新たな気持ちで問題に向き合えたためであって、無意識の「思考」が起きているわけではないのでは・・など
研究者はこれらの可能性を検証するために追加の実験を行いました。
これ以上ご紹介すると長くなってしまうので、詳細は割愛させていただきますが、上記の疑問には全て答えることができる実験結果となったのです。
①の疑問に応えるために、動画視聴後に虚偽があることを示し、すぐに判断を行なってもらう直観条件を追加して実験を行いましたが結果は変わりませんでした。
②の可能性を排除するために、動画を視聴しながらあるいは同時に虚偽判定をしてもらう実験を行いました。
それでも、無意識思考条件があらゆる思考条件を上回っていました。
また、無意識思考条件では、動画視聴後に嘘をついている人がいることを示してからパズル問題を解いてもらいました。
③の可能性を検討するために、動画視聴後に「これで実験は終了です。これからパズル問題を解いてもらいます」と教示してからパズル問題終了後に虚偽判定をしてもらう条件(単純妨害条件)を追加して実験を行いました。
パズル問題を解く前に虚偽があることに触れられていないので、無意識思考は働きません。
それでも、無意識思考条件はこの条件よりかなり精度の高い虚偽検出を行なっていることが判明しました。
つまり、無意識思考は実際にアクティブな思考が起こっていることも証明されたのです。
嘘や詐欺を見分け被害に合わないために
それではまとめです。
嘘や詐欺を見抜くのは非常に難しいという話をしました。
それらを見抜ける割合はデタラメに選んだ確立(つまり50%)をちょっと上回る程度と言われています。
素人ならともかく警察や弁護士といったプロの方ならたやすく見分けることができるだろうと思いますが、そうではありません。
素人もプロもそう変わりはないのです。
では、どうしようもないかというとそうではありません。
最新の研究報告によると思考法がポイントとなるようです。
特に、無意識の力を活用することが重要になりそうです。
これでま見てきたように、無意識思考がそのキーポイントとなります。
想像を超える情報処理量をこなす無意識思考。
これを使うことで虚偽検出の確率がアップします。
簡単に言うと「思考を寝かせる」のです。
何か怪しい・・・と感じた時は、考え込むのではなく、その問題を脇に置いてみましょう。
そうすれば、あなたの無意識がベストな回答を出してくれるはずです。
本記事は下記の研究論文を参考に執筆しました。
The capacity to identify cheaters is essential for maintaini…