無意識思考と創造性

企画の案がまとまらない。文章の書き出しが決まらない。同じ考えが頭の中を何度も巡る。

そんなとき、「もっと集中しなければ」と考えていませんか。

発想の手がかりになるのは、考え続ける時間だけではありません。一度取り組んだ問題からいったん離れ、あとでもう一度向き合うことで、別の案が見えてくることがあります。

この記事では、無意識思考と創造性の関係を、問題を「寝かせる」研究から考えます。仕事や日常で試すための基本は、**「考える → いったん離れる → もう一度考える」**です。

アイデアを「寝かせる」とはどういうことか

心理学では、問題に取り組んだあとに中断する時間を設け、その後の解決や発想がよくなる現象を「孵化効果(インキュベーション効果)」と呼びます。

SioとOrmerodによるメタ分析では、問題から離れる時間に一定の有益な効果が認められました。ただし、課題の種類や中断中に行う活動などによって、効果の大きさは異なります。休めばどんな問題でも解ける、という結果ではありません。研究の概要を読む

「同じ案しか浮かばない」と感じたとき、考える時間の使い方を変えてみる。この研究は、その選択肢を考える手がかりになります。

無意識思考と孵化効果は、どう関係するのか

無意識思考は、ある問題に意識的な注意を向けていない間の思考過程に注目する考え方です。孵化効果は、問題から離れたあとに成績が改善するという現象を指します。

ここでは、「何が起きたか」と「なぜ起きたか」を分けることが大切です。

中断後によい案が出たとしても、それだけで「無意識が考え続けて答えを完成させた」と確かめられたわけではありません。最初の考えへの固執が弱まることなど、複数の説明が検討されています。

無意識思考を、意識的な検討と組み合わせて発想を考える視点として捉えると、実践にもつなげやすくなります。

無意識思考の基本と研究上の限界について詳しく読む

研究では、どのような「離れる時間」が調べられているのか

Bairdらの実験では、身近な物の珍しい使い方を考える課題に取り組んだあと、参加者に異なる過ごし方をしてもらいました。

その結果、負担の軽い課題を挟んだ条件では、負担の重い課題、休息、中断なしの条件に比べて、すでに取り組んだ問題への回答が改善しました。また、その条件では、注意が目の前の課題からそれる「マインドワンダリング」が多く報告されました。研究の概要を読む

ただし、マインドワンダリングと無意識思考は同じ意味ではありません。この実験だけで、あらゆる仕事の創造性が高まるともいえません。

日常に取り入れるなら、「まず課題に向き合い、その後に負担の軽い活動を挟む」という試し方が考えられます。

発想に行き詰まったときの3ステップ

以下は、研究を踏まえた日常での試し方です。実験の手続きをそのまま再現したものではなく、効果や最適な時間を保証するものでもありません。

1.まず、何を考えるのかをはっきりさせる

「何かよい案がほしい」だけでは、あとで案を選ぶ基準も曖昧になります。

たとえば企画なら、「誰の、どんな困りごとを解決したいのか」を一文で書きます。そのうえで、使える情報や思いついた案をいくつかメモしておきます。

文章の書き出しなら、「読者に最初に伝えたいことは何か」を書いてみてください。離れる前に、考える対象を具体的にしておきます。

2.いったん、別の軽い活動に移る

同じ案を繰り返すようになったら、席を離れる、机の上を片づける、お茶を入れるなど、負担の軽い活動に移ってみます。

大切なのは、「よい案を出さなければ」と力み続ける状態から、一度離れてみることです。

中断が先延ばしにならないよう、「この作業が終わったら戻る」と区切りを決めておくと試しやすくなります。

3.戻ってから、案を出し直して検討する

戻ったら、前のメモに新しい案を書き足します。少し違う切り口や、既存の案の組み合わせでも構いません。

その後で、「目的に合っているか」「実行できるか」「根拠や条件に問題はないか」を確かめます。

思いついた案は、検討の出発点です。 ひらめいたときの納得感だけで採用せず、比較や小さな試行につなげましょう。

「考えない時間」を活かすために気をつけたいこと

問題を寝かせる方法は、情報不足を自動的に埋めてくれるものではありません。新しい案が出なければ、資料を調べる、相手の話を聞く、問いの立て方を変えることも必要です。

また、アイデアを広げる場面と、正確さを確かめる場面では、必要な作業が異なります。計算、事実確認、条件の照合は、それぞれ丁寧に行う必要があります。

中断後に変化がなくても、自分には創造性がないと結論づける必要はありません。扱う問題や状況に応じて、考え方を調整していきましょう。

『Third Thinking』で、考える時間の使い方を見直す

私は、無意識思考を中心に、思考・創造性・意思決定について研究・執筆を行っています。

著書『Third Thinking』では、無意識思考という視点から、仕事や日常の「考える」を見つめ直しています。

考えることに行き詰まったとき、努力の量だけでなく、考える時間と離れる時間の組み合わせにも目を向けてみる。そのきっかけとして読んでいただければと思います。

『Third Thinking』の内容・目次を見る

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参考文献

  • Sio, U. N., & Ormerod, T. C. (2009). Does incubation enhance problem solving? A meta-analytic review. Psychological Bulletin, 135(1), 94–120. PubMed
  • Baird, B., Smallwood, J., Mrazek, M. D., Kam, J. W. Y., Franklin, M. S., & Schooler, J. W. (2012). Inspired by distraction: Mind wandering facilitates creative incubation. Psychological Science, 23(10), 1117–1122. PubMed

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