車選びで迷ったら――無意識思考の研究から考える、納得できる選び方
価格、燃費、デザイン、乗り心地。車を選ぶときには、比べたいことがたくさんあります。
調べるほど候補が増え、最初に何を大切にしていたのかわからなくなる。そんな経験はないでしょうか。
無意識思考の研究では、情報を得たあと、いったん別のことに取り組んでから選ぶ方法が調べられてきました。車の選択を題材にした実験もあります。
ただし、その結果を「車は考えずに買ったほうがよい」と受け取ることはできません。研究でわかったことを確認しながら、納得できる選び方を考えてみましょう。
車選びを使って、何を調べたのか
Dijksterhuisらが2006年に発表した研究では、複雑な選択における無意識思考の働きが検討されました。
車の情報を使った実験では、参加者に複数の車の特徴を提示し、そのあとで車について考える条件と、別の課題に取り組む条件を比較しました。情報が少ない場合と、多い場合も設けられました。
その結果、情報が多い条件では、別の課題に取り組んだ参加者のほうが、実験上よいとされた車を選びやすいという結果が報告されました。
この研究は、判断までの時間をすべて意識的な検討に使うことが、いつも有利とは限らないという問いを投げかけました。
「考えなければよい」とは言えない理由
無意識思考の優位性については、その後も検証が続いています。
Nieuwensteinらが2015年に発表した大規模な追試では、無意識思考の優位性を示す証拠は得られませんでした。同時に行われたメタ分析でも、それまでの肯定的な結果の頑健性に疑問が示されています。
そのため、「選択が複雑になるほど、無意識に任せればよい」という一般的なルールが確立したとは言えません。
追試とメタ分析を読む(Nieuwensteinら、2015年)
また、実験で用意された「よい車」と、自分の暮らしに合う車は同じとは限りません。
たとえば、荷物をたくさん積む人と、狭い道を毎日走る人では、大切にする条件が違います。特徴の数だけで、自分にとっての価値が決まるわけではありません。
さらに、別のことをしたあとに判断が変わっても、それだけで、無意識がすべての情報を整理して最適な答えを出したと確認できるわけではありません。
まず、「どんな場面で使うか」を決める
ここからは、研究の結果をそのまま購入手順に置き換えるのではなく、日常で判断を整理するための方法を提案します。
最初に書き出したいのは、欲しい装備よりも、車を使う場面です。
「平日は一人で通勤する」
「週末は家族で出かける」
「自宅周辺に狭い道が多い」
「大きな荷物を運ぶことがある」
こうした使い方をもとに、条件を二つに分けます。
- 必ず満たしたい条件:予算の上限、必要な座席数、駐車場に収まる大きさなど。
- できれば満たしたい条件:好きな色、内装、あると便利な装備など。
たとえば、好みのデザインでも、自宅の駐車場で出し入れしにくければ、日々の使い勝手に影響します。
候補を見比べる前に、この区別をつけておくと、自分が何を優先しているかを確かめやすくなります。
比較は、頭の外に出す
車の特徴をすべて覚えたまま比べようとする必要はありません。紙やメモに書き出して、見ながら検討できます。
比較する項目には、たとえば次のようなものがあります。
- 購入時の総額と、維持にかかる費用
- 車体の大きさと、駐車のしやすさ
- 座席や荷室の使いやすさ
- 試乗で感じた運転のしやすさ
- 自分が必要とする装備
その際、確認できた事実と、自分の感想を分けて記録することがポイントです。
「車幅は○センチ」は事実です。一方、「運転しやすく感じた」は自分の体験です。どちらも判断材料になりますが、同じ種類の情報ではありません。
まだわからないことは、無理に評価せず「未確認」として残します。
迷いが続いたら、いったん区切る
必要な情報を集めても、同じ比較を繰り返して決められないことがあります。
そんなときは、次に何を確認するかをメモしてから、検討をいったん区切ってみる方法があります。別の用事を済ませ、あとで候補を見直す時間を設けます。
ここでの目的は、ひらめきが出るまで待ち続けることではありません。戻ってきたときに、次のことを確かめます。
「今も、この車を選びたいと思うか」
「どこに魅力を感じているのか」
「必ず満たしたい条件に、無理はないか」
気持ちが変わったなら、その理由を考えてみます。
デザインに惹かれていたけれど、実際には乗り降りのしやすさを重視したい。そう気づいたなら、次の確認につなげられます。
なお、ここで紹介した区切り方は、特定の実験で効果が保証された購入手順ではありません。検討の進め方を整えるための提案です。
直観を、確かめるきっかけにする
「こちらの車がしっくりくる」という直観も、自分の好みを考える手がかりになります。
ただ、その感覚だけでは、費用や寸法、契約内容まで確認したことにはなりません。
たとえば、「こちらのほうが運転しやすい」と感じたなら、視界、座席の位置、操作のしやすさなど、何がそう感じさせたのかを確かめてみます。
反対に、比較表では魅力的なのに気が進まない場合も、気になる点を言葉にしてみる価値があります。
直観をきっかけに確認を深めることで、数値だけでは見えにくかった自分の希望を、選択に反映できます。
直観と論理、どちらを信じる?――意思決定に活かす思考の使い分け
自分に合う一台を選ぶために
車選びでは、魅力的な特徴をすべて備えた一台を探すより、自分が大切にする条件を満たしているかを確かめたいところです。
必要な情報を集める。比較をメモに残す。迷いが続いたら区切り、戻ってから条件と気持ちを見直す。
無意識思考の研究をきっかけに、考える内容だけでなく、考える時間の使い方にも目を向けてみてください。
関連する読みもの
参考文献
- Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., & van Baaren, R. B.(2006). On making the right choice: The deliberation-without-attention effect. Science, 311, 1005–1007. 論文情報
- Nieuwenstein, M. R., et al.(2015). On making the right choice: A meta-analysis and large-scale replication attempt of the unconscious thought advantage. Judgment and Decision Making, 10, 1–17. 論文