採用・人事評価のバイアスを減らすには――無意識思考の研究から考える
「この人なら、リーダーに向いていそうだ」
「話しやすく、よい印象を受けた」
採用や人事評価では、実績や経験を確認すると同時に、相手から受ける印象も判断材料になりがちです。
その印象は、仕事に必要な能力を捉えているのでしょうか。それとも、自分が思い描く「ふさわしい人物像」に近いということなのでしょうか。
無意識思考の研究には、人材の選考を題材に、判断の偏りを検討したものがあります。研究で報告されたことと、実際の人事で大切にしたいことを整理します。
「無意識の偏り」と「無意識思考」は違う
まず、似ている二つの言葉を区別しておきましょう。
無意識の偏りは、自分では気づきにくい思い込みなどが、判断に影響することを指します。たとえば、本人の経験や行動を十分に確認せず、性別から役割への適性を推測してしまう場合です。
一方、無意識思考の研究では、判断材料に触れたあと、別の課題に注意を向けてから判断する条件などが用いられます。
同じ「無意識」という言葉があっても、指しているものは異なります。無意識思考を使えば、無意識の偏りが自動的に消えるという関係ではありません。
人材選考を題材にした研究
Messnerらが2011年に発表した研究では、応募者の情報を読んだあと、意識的に考える条件と、別の課題に取り組む無意識思考条件で、選考の結果が比較されました。
研究では、無意識思考条件で選考の質が高まる結果が報告されました。一方、意識的に考える条件では性別による偏りがみられ、外見的な魅力による偏りを示唆する結果もありました。
この研究は、選考に時間をかけるだけで、仕事に関係する情報を適切に評価できるとは限らない、という問いを投げかけています。
実験の結果を、人事全体に広げすぎない
この研究を「採用では、じっくり考えないほうがよい」と受け取ることには注意が必要です。
実験では、研究者が用意した応募者情報と、定められた手順のもとで判断を比較しています。実際の採用では、求める役割、集められる情報、面接の方法などが異なります。
また、実験上の選考結果がよかったことと、採用後の仕事ぶりを正確に予測できたことは同じではありません。
一つの選考実験から、組織全体の男女平等を達成できるとも言えません。応募の機会、仕事の配分、育成、昇進など、選考以外の仕組みも検討する必要があります。
研究の結果は、判断方法を見直すきっかけになります。しかし、評価基準や根拠の確認に代わるものではありません。
まず、仕事に必要な条件を言葉にする
実際の選考で取り組みたいのは、「どんな人がよさそうか」を、仕事に必要な条件へと具体化することです。
たとえば、「リーダーらしい人」という表現だけでは、評価する人によって思い浮かべる人物像が違うかもしれません。
そこで、求める行動を具体的にします。
- 関係者の意見を整理し、方針を説明できる
- 進捗を確認し、遅れがあれば対応できる
- 意見が対立した場面で、調整に取り組める
そのうえで、どのような経験や回答があれば、その能力を確認できるかを考えます。
評価項目そのものが仕事に必要かどうかも、見直したいところです。以前の担当者に似ていることと、その仕事を担えることは区別して考えます。
質問と評価のものさしをそろえる
候補者によって質問や採点の基準が大きく異なると、回答を比較しにくくなります。
こうした問題に取り組む方法の一つが、構造化面接です。
米国人事管理庁(OPM)は、あらかじめ決めた共通の質問を同じ順序で行い、共通の尺度と基準で回答を評価する方法を紹介しています。
たとえば、調整する力を確認したい場合には、全員に共通して次のように尋ねる方法が考えられます。
「意見の異なる人と協力して仕事を進めた経験について、ご自身が行ったことと、その結果を教えてください」
回答を聞く前に、確認する点も決めておきます。課題をどう把握したか、本人が何をしたか、結果をどう振り返っているか、といった点です。
これは質問例であり、そのままどの職種にも適用できるというものではありません。実際の仕事に合わせて設計することが必要です。
印象を、具体的な根拠に戻してみる
「頼りがいがある」「協調性がありそう」と感じたときには、何を見聞きしてそう思ったのかを確かめます。
たとえば、次の二つは分けて記録できます。
「自信のある話し方だった」
「関係者の意見を集め、計画を修正した具体例が示された」
前者は話し方についての印象です。後者は、本人が説明した行動についての情報です。どちらを評価しているのかを明確にすることで、判断の理由を検討しやすくなります。
複数人で評価する場合も、まず各自が評価と根拠を記録し、そのあとで違いを話し合う方法が考えられます。
点数を一致させることだけを目指すのではなく、「どの情報を、どの基準で評価したか」を確かめます。
いったん離れるなら、戻ったあとに確かめる
判断がまとまらないとき、検討を区切ってから見直すことはできます。
ただし、人事でその方法を使うなら、戻ってきたときの感覚だけで決めず、評価基準と記録を再確認したいところです。
「この人がよいと思う理由は何か」
「ほかの候補者にも、同じ基準を当てはめているか」
「仕事と関係のない印象が、評価に入り込んでいないか」
無意識思考への関心を、判断を任せきる理由にするのではなく、自分の判断を点検する機会につなげます。
公平な評価を、確認できる形にする
採用や人事評価では、「公平に見ているつもり」という意識に加えて、評価の過程を確かめられることが大切です。
仕事に必要な条件を決め、共通の質問と基準を用意し、判断の根拠を残す。基準自体に不合理な点がないかも見直す。
無意識思考の研究が示す問いをきっかけに、考え方と評価の仕組みの両方を整えていきたいものです。