嘘を見分ける方法はある?――心理学研究から考える判断の落とし穴【前編】

「目をそらしたから、嘘をついているのではないか」
「自信を持って話しているから、信用できそうだ」

相手の話が本当かどうかを考えるとき、私たちは表情や話し方を手がかりにします。

しかし、その印象はどこまで頼りになるのでしょうか。

心理学研究では、相手の言動から嘘と真実を見分けることの難しさが繰り返し検討されてきました。身振りや表情に注目すれば、誰でも簡単に嘘を見抜けるわけではありません。

この記事では、研究から見えてくる判断の限界と、日常で情報を確かめるための工夫を紹介します。

人はどのくらい嘘を見分けられるのか

BondとDePauloが2006年に発表したメタ分析では、206の文献、計24,483人の判定者に関する結果が検討されました。

特別な補助や訓練なしで嘘と真実を判定する研究において、平均正答率は約54%でした。研究の概要を読む

これは、嘘と真実を二択で当てる際の偶然の水準である50%を少し上回る成績です。「人はまったく見分けられない」という意味ではありませんが、判断を過信できる結果でもありません。

また、この数字は、研究で使われた課題や条件をまとめたものです。日常のあらゆる場面で正答率が54%になる、あるいは詐欺を防げる確率が54%という意味ではありません。

相手の説明を聞くことに加えて、記録や資料を確認できる場面では、利用できる情報も変わります。

表情やしぐさだけでは決められない

「嘘をつく人は視線をそらす」「落ち着きなく動く人は怪しい」といった説明を聞いたことがあるかもしれません。

しかし、DePauloらによる嘘の手がかりのメタ分析では、多くの行動について、嘘との関係が明確でなかったり、関係が弱かったりすることが示されています。論文を読む

緊張した話し方や、言葉に詰まる様子を見ても、その理由が嘘だとは限りません。正直に話していても、うまく伝えられないことはあります。

反対に、落ち着いて話していることだけで、内容が正しいと確認できるわけでもありません。

「気になる振る舞い」と「嘘の証拠」は、分けて考える必要があります。

話の食い違いにも、複数の説明がある

前に聞いた話と、今回の説明が違う。質問すると、答えが曖昧になる。

こうした点は、追加で確認するきっかけになります。ただし、食い違いがあっただけで、意図的な嘘だと断定することはできません。

記憶違い、言葉の意味のずれ、質問の受け取り方の違いなども考えられるからです。

たとえば「資料は送りました」という説明でも、相手は「担当者に渡した」という意味で話し、こちらは「自分宛てにメールを送った」という意味で理解しているかもしれません。

この場合は、「いつ、誰に、どの方法で送りましたか」と具体的に確認することで、食い違いの中身を整理できます。

事実として間違っていることと、相手が意図的にだましていることは、同じではありません。

違和感を、事実確認につなげる3つの工夫

ここからは、研究上の限界を踏まえた日常での提案です。嘘を確実に検出する手順ではなく、印象だけで結論を出さないための工夫として紹介します。

1.気になった点を具体的にする

「なんとなく怪しい」という印象が浮かんだら、何が気になったのかを整理します。

話し方なのか。説明が前後で違うのか。重要な条件が明らかでないのか。

たとえば「信用できない人だ」とまとめる代わりに、「説明された日付が、資料の日付と違う」と書き出します。

こうすると、次に何を確認すればよいかが明確になります。

2.確認できる情報と照らし合わせる

説明の内容を、メール、資料、記録などと照らし合わせます。

確認するときは、資料があるというだけで安心せず、その資料がどこから来たものか、話のどの部分を裏づけているのかも見てみましょう。

仕事上の連絡なら、手元にある過去のやり取りや、関係者が共有している記録が手がかりになります。

相手の表情を読み取ろうとすることに集中するより、確かめられる情報を増やすことに目を向けます。

3.わからない段階では、結論を保留する

十分な情報がないときは、「まだ判断できない」という状態を認めて構いません。

違和感があるからといって相手を嘘つきと決めつける必要はなく、嘘だと証明できないからといって、すべてを信用する必要もありません。

追加の説明を求める、記録を確認する、必要に応じて第三者に相談するなど、結論の前にできることを選びましょう。

「見抜く自信」より、確かめる習慣を

嘘を見分けようとすると、相手の小さなしぐさに答えを探したくなります。

しかし、言動からの判定には限界があります。印象を手がかりにしつつ、内容を具体化し、確認できる情報と照らし合わせることが大切です。

たとえば、説明の食い違いに気づいたら、「この人は嘘をついている」と判断する前に、「どの情報が一致していないのか」を確かめる。その一手間を、判断の中に組み込んでみてください。

こうした確認は、誤った情報を受け入れないためだけでなく、正直に話している相手を誤解しないためにも必要です。

無意識思考で嘘を見分けられるのか

意識的に考え続けることと、いったん別のことに注意を向けることでは、嘘と真実の判断に違いが生じるのでしょうか。

元の記事で紹介していたのは、この問いを扱った無意識的処理に関する研究です。後編では、その研究の方法と結果を取り上げ、日常の判断にどこまで当てはめられるのかを考えます。

「無意識に任せれば嘘を見抜ける」という結論を先に置かず、実験で確かめられた範囲を見ていきます。

後編:無意識思考で嘘を見抜ける?――研究結果と限界を考える

関連する読みもの

参考文献

  • Bond, C. F., Jr., & DePaulo, B. M.(2006). Accuracy of deception judgments. Personality and Social Psychology Review, 10(3), 214–234. PubMed
  • DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H.(2003). Cues to deception. Psychological Bulletin, 129(1), 74–118. 論文PDF

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