直観と論理、どちらを信じる?――意思決定に活かす思考の使い分け
「なんとなく、こちらがよい気がする。でも、理由を聞かれるとうまく説明できない」
反対に、「条件を比べるとこちらがよいはずなのに、どうも気が進まない」ということもあるでしょう。
直観と、筋道を立てて考えた結論が食い違うとき、どちらを信じればよいのでしょうか。
判断の手がかりになるのは、その直観がどのような経験から生まれたのか、そして論理的な検討がどのような情報を前提にしているのか、という点です。
この記事では、直観と論理の特徴を整理し、仕事や日常の意思決定で使い分けるための視点を紹介します。
直観と論理的思考は、何が違うのか
ここでは、意識的に推論の手順をたどることなく浮かぶ判断を「直観」と呼びます。一方、理由や条件を確かめながら、筋道を立てて結論を導くことを「論理的思考」と呼びます。
たとえば、文章を読んだ瞬間に「この説明はわかりにくい」と感じるのは、直観的な判断の一例です。そのあとで、「主語が曖昧なのか」「説明の順序が逆なのか」と調べるのは、分析的な検討に当たります。
心理学の二重過程理論では、自動的に進む処理と、作業記憶を使って意識的に検討する処理を区別します。一般向けには「速い思考」「遅い思考」と説明されることもありますが、単に考える時間の長さだけで分けられるものではありません。理論についての論文を読む
また、「直観的だから間違い」「時間をかけたから正しい」とは限りません。判断の内容と、それを支える材料を確かめることが必要です。
直観を頼りにできるのは、どんなときか
繰り返し経験してきた仕事では、詳しく説明する前に「ここが気になる」とわかることがあります。
ただし、経験年数が長いというだけで、直観が正確になるとは限りません。
KahnemanとKleinは、専門家の直観を評価するうえで、環境に予測可能な規則性があることと、その規則性を学ぶ機会があることを重視しました。また、本人の確信の強さは、判断の正確さを示す信頼できる指標ではないと指摘しています。論文の概要を読む
この考え方を日常に引き寄せるなら、「似た状況を経験したか」に加えて、「自分の判断がどういう結果につながったかを確かめてきたか」を振り返るとよいでしょう。
「長くやってきたから大丈夫」で終わらず、経験から何を学べているかに目を向けます。
論理的に考えるときは、前提も確かめる
論理的な検討は、選択肢の比較、計算、条件の確認に役立ちます。
ただし、筋道が通っているように見えても、出発点となる情報が不正確だったり、大切な条件が抜けていたりすれば、結論を見直す必要があります。
たとえば、仕事の進め方を選ぶとき、所要時間だけを比較すれば、最も早く終わる方法がよく見えるでしょう。しかし、手戻りの可能性や、相手への伝わりやすさも重要なら、それらを含めて検討しなければなりません。
考えるときには、次のように問い直してみてください。
- この情報は、確かなものだろうか。
- 比較から抜けている条件はないだろうか。
- 最初に選びたかった案に、有利な理由だけを集めていないだろうか。
検討を深めるとは、理由を増やすだけでなく、前提を点検することでもあります。
直観と論理が食い違ったときの3つの確認
以下は、日常で判断を整理するための提案です。特定の実験で、この手順全体の効果が実証されているわけではありません。
1.直観が何に反応しているのかを探る
まず、「よさそう」「気が進まない」という印象を書き留めます。そのうえで、どの部分が気になったのかを考えてみます。
過去に似た経験があるのか。説明に抜けがあるのか。自分の好みに合わないのか。単に慣れていないのか。
すべてを言葉にできなくても構いません。浮かんだ印象を、確認するための問いに変えてみましょう。
2.事実と、自分が大切にしたいことを分ける
「所要時間が短い」は、測定や確認ができる情報です。「多少時間がかかっても丁寧に進めたい」は、自分が大切にしたいことです。
意思決定では、どちらも関わります。
条件を比べても納得できないときは、自分にとって重要なことが、比較の中に入っているかを確認します。一方、好みに合う案でも、必要な条件を満たしているかは別に確かめます。
3.確かめられることを、小さく試す
可能であれば、一度に結論を出す前に試してみます。
説明文なら、想定する読者に読んでもらう。新しい作業方法なら、一部の作業で試す。道具なら、実物を触って使い勝手を確認する。
「どちらの考えが正しいか」を頭の中だけで争うよりも、新しい情報を得ることで判断しやすくなる場合があります。
具体例:メールを送る前に、違和感があったら
必要な情報をすべて書いたのに、「このメールは少し伝わりにくそうだ」と感じたとします。
その直観を手がかりに、文章を確かめてみましょう。
相手に何をしてほしいのかが明確か。期限が書かれているか。背景説明が長く、依頼が埋もれていないか。
たとえば依頼が最後まで出てこないなら、冒頭に移して読み直します。
この例では、直観が点検のきっかけとなり、論理的な検討が修正箇所を具体的にしています。最後は、相手に必要な情報が伝わるかという目的に照らして判断します。
無意識思考という視点もある
直観と論理を考えるとき、もう一つ注目したいのが、情報を得たあとに問題からいったん離れる時間です。
無意識思考の研究では、ある問題に意識的な注意を向けていない間の処理と、その後の判断との関係が調べられています。
その場で浮かんだ直観に従うことと、情報を整理したあとに時間を置いて判断することは、区別して考える必要があります。ただし、両者の関係を単純に割り切れるわけでもありません。
無意識思考を、直観や論理を上回る万能の方法とみなすことはできません。研究上の議論と、日常で試す際の注意点は、次の記事で説明しています。
無意識思考と意思決定――迷ったときに「いったん離れる」という選択
自分の思考の使い方を知るために
直観を手がかりにしながら、経験や根拠を確かめる。論理的に考えながら、前提や見落としを点検する。
判断に迷ったときは、「自分は直観派か、論理派か」と決めつけず、その場面で何を補えばよいかを考えてみてください。
私は、無意識思考を中心に、思考・創造性・意思決定について研究・執筆を行っています。著書『Third Thinking』では、無意識思考の研究を通して、仕事や日常の「考える」を見つめ直しています。
関連する読みもの
参考文献
- Evans, J. St. B. T., & Stanovich, K. E.(2013). Dual-process theories of higher cognition: Advancing the debate. Perspectives on Psychological Science, 8(3), 223–241. PubMed
- Kahneman, D., & Klein, G.(2009). Conditions for intuitive expertise: A failure to disagree. American Psychologist, 64(6), 515–526. PubMed