無意識思考で嘘を見抜ける?――研究結果と限界を考える【後編】

「じっくり考えても、相手の話が本当かどうかわからない」

そんなとき、いったん別のことに注意を向けると、判断は変わるのでしょうか。

無意識思考の研究では、意識的に考えていない時間と、その後の判断との関係が調べられてきました。嘘と真実の判定も、その対象の一つです。

ただし、研究結果から「無意識に任せれば嘘を見抜ける」とまではいえません。利点を報告した研究がある一方で、その優位性を確認できなかった研究もあります。

この記事では、両方の結果を紹介し、日常の判断にどこまで活かせるのかを考えます。

前編:嘘を見分ける方法はある?――心理学研究から考える判断の落とし穴

無意識思考と嘘の判定を調べた研究

Reinhardらは2013年、無意識的な処理が嘘の判定に及ぼす影響を調べた5つの実験を発表しました。

研究の基本的な考え方は、判断するまでの過ごし方を変えて、成績を比較するというものです。すぐに判断する条件、意識的に考える条件、別の課題を挟んでから判断する条件などが比較されました。

研究者らは、意識的に考え続けることを妨げられた条件で、他の条件より嘘と真実を正確に見分けられたと報告しています。そして、無意識的な処理が、判断に必要な情報の統合を助けたと解釈しました。研究の概要を読む

この研究が投げかけたのは、「判断のために考える時間を増やすことだけが、有効な方法なのか」という問いです。

その後の追試では、優位性が確認されなかった

一方、MoiとShanksが2015年に発表した研究では、異なる結果が得られました。

この研究では、比較条件を一部見直したうえで、動画を見た直後に判断する条件と、意識的に考える時間や別の課題を挟む条件を比較しました。

2つの実験、合計226人の結果では、思考条件による嘘の判定精度の有意な差は確認されませんでした。論文を読む

これは、元の研究とすべての手続きを同じにした実験ではありません。ただし、無意識思考の優位性が、似た条件で安定して得られるとは限らないことを示しています。

利点を報告した研究だけから、誰にでも使える嘘の見抜き方だと結論づけることはできません。

研究結果を読むときに分けたい3つのこと

1.判定成績と、その仕組み

ある条件で成績がよくなることと、その理由が無意識思考であることは、別の問いです。

研究者は比較条件を設け、別の説明の可能性を検討します。それでも、頭の中で進む過程を特定するには、複数の研究を通じた検証が必要です。

「別の課題をしたあとに正答率が上がった」という結果だけで、無意識の仕組み全体が解明されたわけではありません。

2.平均的な成績と、目の前の一人への判断

仮に実験で平均正答率が上がっても、すべての判定が正しくなるわけではありません。

そのため、「時間を置いたら、この人は嘘をついている気がしてきた」という感覚を、その人が嘘をついている証拠にはできません。

集団としての成績と、一人ひとりの発言の真偽は、分けて考える必要があります。

3.実験課題と、日常のやり取り

動画を見て真偽を判定する実験と、相手に質問したり、記録を確認したりできる日常場面では、利用できる情報が異なります。

実験での成績が、そのまま詐欺の被害防止や、職場での人物評価の有効性を示すわけではありません。

日常では、思考の仕方だけでなく、判断材料をどう集めるかにも目を向ける必要があります。

日常では、どう取り入れればよいのか

「怪しい気がするが、理由がはっきりしない」というときには、すぐに結論を出さず、確認する時間を設けるという対応が考えられます。

以下は、研究で効果が確立した嘘の検出手順ではありません。判断を急がず、事実確認につなげるための提案です。

1.説明と、自分の印象を分けて残す

「相手は資料を昨日送ったと説明した」という内容と、「答え方が曖昧に感じられた」という印象を、分けてメモします。

印象を事実と混同しないようにすると、何が確認済みで、何が未確認なのかを整理できます。

2.必要なら一度区切り、確認することを決める

その場で判断する必要がなければ、「記録を確認してから返答します」と区切ることもできます。

時間を置くだけで答えが出ると期待するのではなく、その間に何を確かめるかを決めておきます。

説明された日時、関係する資料、過去の連絡など、具体的な確認事項を挙げてみましょう。

3.戻ってから、確かめられた情報で判断する

追加の情報が得られたら、最初の説明と照らし合わせます。

食い違いがあれば、その理由を確認します。情報が足りなければ、「まだ判断できない」と保留することも必要です。

直観的な違和感は確認のきっかけとして扱い、結論は確かめられた情報に基づいて考えましょう。

無意識思考の可能性を、過信せずに考える

無意識思考の研究は、意識的に考えていない時間にも目を向け、私たちの判断を理解しようとするものです。

その可能性を検討するためには、利点が報告された研究と、同じ優位性が得られなかった研究の両方を読むことが大切です。

嘘の判定についても、「無意識なら間違えない」「バイアスがなくなる」とは考えず、どの条件で、何が確認されているのかを見ていきましょう。

私は、無意識思考を中心に、思考・創造性・意思決定について研究・執筆を行っています。無意識思考の基本や、判断との関係については、次のページでも紹介しています。

関連する読みもの

参考文献

Moi, W. Y., & Shanks, D. R.(2015). Can lies be detected unconsciously? Frontiers in Psychology, 6, 1221. 論文全文

Reinhard, M.-A., Greifeneder, R., & Scharmach, M.(2013). Unconscious processes improve lie detection. Journal of Personality and Social Psychology, 105(5), 721–739. PubMed

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