フロイトの無意識と無意識思考はどう違う?――心理学の考え方を整理する

「無意識」と聞くと、フロイトや夢の分析を思い浮かべる方もいるでしょう。

一方、このサイトでは、意思決定や創造性に関わる「無意識思考」を紹介しています。

どちらも、自分では意識していない心の働きに関係する言葉です。しかし、同じ理論を指しているわけではありません。

その違いを整理すると、無意識についての研究を理解しやすくなります。

フロイトが注目した「無意識」

精神分析を創始したフロイトは、自分では意識していない願望や心の葛藤が、言葉や行動、夢などに関わると考えました。

その考え方で重要な位置を占めるのが「抑圧」です。受け入れがたい心の内容が意識から遠ざけられても、心の働きに影響し続ける、という考え方です。

フロイトは、患者との対話や夢、言い間違いなどを手がかりに、意識に上りにくい心の内容を理解しようとしました。こうした考えは『精神分析入門』でも説明されています。

フロイト『精神分析入門』の英訳を読む

ここで紹介しているのは、フロイトが示した理論です。夢や言い間違いを見れば、その人の隠れた願望が確実にわかる、という意味ではありません。

現代の「無意識思考」が扱う問い

無意識思考理論は、DijksterhuisとNordgrenが2006年にまとめた、思考や判断に関する理論です。

中心となる問いは、判断の対象について意識的に考えていない間にも、判断に関わる情報処理が進むのか、というものです。

たとえば、複数の選択肢について情報を得たあと、次のような条件を比べる実験があります。

  • 選択肢について意識的に考える
  • 別の課題に取り組み、選択肢から注意をそらす
  • すぐに判断する

その後の選択や評価を比較することで、思考条件による違いを調べます。

研究者は、対象から注意が離れている間の情報処理を「無意識思考」として説明し、その特徴や働く条件について仮説を示しました。

無意識思考理論の論文情報を読む

これは、本人が抑圧している願望を読み解く研究とは、問いも調べ方も異なります。

共通する関心と、異なる研究の進め方

フロイトの理論と無意識思考理論には、心の働きを、本人が自覚していることだけで説明しきれるのか、という共通の関心があります。

ただし、注目する対象は異なります。

フロイトの精神分析では、願望や葛藤、その人の経験が持つ意味などが重要になります。

無意識思考の実験では、情報の提示方法や判断までの過ごし方を変え、選択や評価にどのような違いが生じるかを調べます。

そのため、無意識思考の実験で何らかの効果が見つかっても、それだけでフロイトの理論全体が証明されたことにはなりません。反対に、フロイトの言葉だけを根拠に、特定の思考法の効果を結論づけることもできません。

「意識せずにできること」を、すべて同じにしない

日常でも、「無意識に」という言葉は幅広く使われます。

「無意識に足を動かしていた」
「慣れた操作なので、考えずにできた」
「別のことをしていたら、アイデアが浮かんだ」

これらは似た言葉で表現できますが、同じ仕組みで起きているとは限りません。

特に、慣れた動作が細かな手順を意識せずにできることと、複雑な問題を意識の外で解いていることは、区別する必要があります。

前者の例を示すだけでは、後者まで証明したことにはならないからです。

また、無意識を氷山の水面下にたとえる図も、考え方を伝えるための比喩です。図の面積が、そのまま脳の活動や情報処理の割合を表しているわけではありません。

ひらめきは、無意識思考の証拠になる?

考えてもまとまらなかった案が、散歩中や入浴中にふと浮かぶ。こうした経験は、思考の働きに関心を持つきっかけになります。

ただ、その体験だけから、何が起きていたかを一つに決めることはできません。

意識していない間に何らかの処理が進んだのか。以前の考え方から離れられたのか。目に入ったものが新しい手がかりになったのか。複数の説明を検討する余地があります。

研究では、こうした説明を区別できるように条件を工夫し、結果を比較します。

「アイデアが浮かんだ」という出来事と、「なぜ浮かんだか」という説明を分けることが、無意識を考えるうえで大切です。

問題からいったん離れることと創造性の関係については、次の記事で紹介しています。

無意識思考と創造性

無意識を、万能な答えにしない

無意識という言葉には、まだ気づいていない可能性を感じさせる魅力があります。

しかし、「意識していない」ということだけで、その働きが正確だとも、自分にとって望ましいとも言えません。

思い浮かんだ案は、実際に試してみる。直観でよいと感じた選択は、条件や根拠を確かめる。自分でも説明しにくい感覚を大切にしながら、確認できることを確認する姿勢が必要です。

このサイトでは、無意識思考を、考える時間や判断の進め方を見直すための研究テーマとして紹介しています。研究結果とその解釈、日常への応用を区別しながら、思考の働きを探っていきます。

関連する読みもの

参考文献

  • Freud, S.(1920). A General Introduction to Psychoanalysis. 英訳版『精神分析入門』。特に第18・19講。本文を読む
  • Dijksterhuis, A., & Nordgren, L. F.(2006). A theory of unconscious thought. Perspectives on Psychological Science, 1(2), 95–109. 論文情報

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