無意識思考と意思決定――迷ったときに「いったん離れる」という選択

選択肢を調べ、長所と短所を比べた。それでも決められない。

仕事の進め方や大きな買い物など、考える材料が多いほど、判断に迷うことがあります。「もう少し考えれば答えが出る」と思いながら、同じところを行き来してしまうこともあるでしょう。

そんなときに検討したいのが、いったん問題から離れる時間をつくることです。

無意識思考の研究は、意識的に考えていない時間と、その後の判断との関係に注目してきました。ただし、「重要な判断は無意識に任せればよい」と結論づけられるわけではありません。

この記事では、研究でわかっていることと限界を整理し、日常の意思決定に取り入れる方法を紹介します。

無意識思考とは――直観との違い

無意識思考とは、ある問題についての情報を受け取ったあと、その問題に意識的な注意を向けていない間に進むと考えられる思考過程です。

一方、ここでいう「直観」は、意識的に推論の手順をたどることなく浮かぶ判断を指します。

研究では、情報を読んですぐに判断する条件、意識的に考える条件、別の課題に取り組んでから判断する条件などを比較します。

つまり、その場で浮かんだ直観に従って判断することと、情報を得たあと、いったん離れてから判断することは、区別して考える必要があります。

ただし、無意識思考の結果が直観的な感覚として現れる可能性もあり、両者を完全に切り離せるとは限りません。また、別の課題をしたあとに判断の成績がよくなっても、それだけで無意識の内部で何が起きたかまで直接わかるわけではありません。

無意識思考の基本について詳しく読む

無意識思考は、複雑な意思決定に役立つのか

Dijksterhuisらが2006年に発表した研究では、複雑な消費者の選択において、意識的に考え続けるよりも、注意を別に向けてから判断することの利点が報告されました。これが、無意識思考と意思決定の関係を広く知られるものにした研究の一つです。研究の概要を読む

一方、その後の研究では同じ優位性が得られない結果も報告されています。Nieuwensteinらによる2015年のメタ分析と大規模な追試は、無意識思考の優位性に疑問を投げかけました。論文を読む

そのため、「選択が複雑になるほど、考えない方がよい」と一般化することはできません。

実験で用意された選択肢を比べることと、仕事や暮らしの中で、自分にとって大切な条件を探りながら決めることにも違いがあります。研究結果を、そのまま人生の重要な選択に当てはめるのは慎重であるべきでしょう。

迷ったときに試す「考える → 離れる → 確かめる」

ここからは、研究を踏まえた日常での試し方です。以下の手順全体が、判断の正確さを高める方法として実証されているわけではありません。自分の考えを整理するための工夫として紹介します。

1.選択肢と、大切にしたい条件を書き出す

まずは、何を基準に決めたいのかを明確にします。

たとえば仕事で使う道具を選ぶなら、価格、使いやすさ、持ち運びやすさなど、複数の条件があるでしょう。その中で、「必ず満たしたい条件」と「できれば満たしたい条件」を分けます。

頭の中だけで比較せず、短いメモにしておくと、あとから同じ基準で見直せます。

この段階で必要な情報が足りなければ、先に調べます。無意識思考が、知らない事実を補ってくれるわけではありません。

2.判断に戻る時間を決めて、いったん離れる

必要な情報を整理したら、別の作業をするなどして、その問題からいったん離れてみます。

ここで大切なのは、期限を決めずに先延ばしにしないことです。「昼休みのあとに見直す」「明日の午前中に決める」など、判断に戻るタイミングを決めておきましょう。

どのくらい離れればよいかについて、あらゆる選択に共通する最適な時間が決まっているわけではありません。判断の期限や状況に合わせて区切ります。

3.戻ったら、印象と判断材料を照らし合わせる

時間を置いてから、どの選択肢がよさそうに感じるかを確認します。そのうえで、最初に書いた条件と照らし合わせます。

  • 必ず満たしたい条件を満たしているか。
  • 気になる点を見落としていないか。
  • 追加で確かめるべき情報はないか。

「なんとなくこちらがよい」という感覚も、検討の手がかりにはなります。ただし、その感覚だけで正しさが保証されるわけではありません。

最後に確かめるところまでを、意思決定の一部にしましょう。

具体例:仕事で使う道具を選ぶとき

候補がいくつもあると、比較するうちに、当初は気にしていなかった機能まで欲しくなることがあります。

そんなときは、まず「毎日持ち運ぶ」「今の作業に必要な機能がある」「予算内に収まる」といった、自分の用途に沿う条件を書いてみます。

その条件で候補を整理したあと、比較画面を閉じて別のことをします。戻ってから、「どれが最も高性能か」だけでなく、「自分の使い方に合うのはどれか」を見直します。

これは、時間を置けば必ず正解が浮かぶという方法ではありません。情報、印象、自分の優先順位を照らし合わせるための、一つの進め方です。

「寝かせること」が向かない場面もある

計算が合っているか、条件を満たしているか、記載内容が事実かどうかは、実際に確認する必要があります。

また、すぐに対応が必要な場面では、問題から離れることを優先できない場合もあります。

重要なのは、今の迷いに何が必要かを見極めることです。

情報が足りないなら調べる。優先順位が曖昧なら整理する。同じ考えを繰り返しているなら、いったん離れてみる。状況に合わせて、考え方を選んでいきましょう。

『Third Thinking』で、意思決定を別の角度から考える

私は、無意識思考を中心に、思考・創造性・意思決定について研究・執筆を行っています。

著書『Third Thinking』では、無意識思考の研究を紹介しながら、仕事や日常の「考える」を見つめ直しています。

考える時間だけでなく、いったん離れる時間にも目を向ける。その視点から、自分の意思決定の進め方を考えていただければと思います。

『Third Thinking』の内容・目次を見る

関連する読みもの

参考文献

  • Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., & van Baaren, R. B.(2006). On making the right choice: The deliberation-without-attention effect. Science, 311, 1005–1007. PubMed
  • Nieuwenstein, M. R., et al.(2015). On making the right choice: A meta-analysis and large-scale replication attempt of the unconscious thought advantage. Judgment and Decision Making, 10, 1–17. 論文リンク

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