AI時代に人間の創造性はどう変わる?―生成AIと無意識思考を組み合わせる新しい思考法
AI時代に、人間の「考える力」はどう変わるのか
生成AIの登場によって、私たちの「考える」という行為は大きく変わりつつあります。
文章を書く。アイデアを出す。企画を考える。情報を整理する。これまで人間が時間をかけて行ってきた作業の一部を、AIは数秒で支援できるようになりました。
では、AIがこれだけ多くのアイデアを出せるようになった時代に、人間の創造性は必要なくなるのでしょうか。
私は、むしろ逆だと考えています。
AI時代には、人間がどのように考え、どのタイミングでAIを使い、どのタイミングでAIから離れるのかが、これまで以上に重要になる可能性があります。
そのとき、一つのヒントになるのが「無意識思考」です。
生成AIは、人間を創造的にするのか
近年、生成AIと人間の創造性について、さまざまな研究が行われています。
2024年に Science Advances に掲載された研究では、生成AIからアイデアを得た人が書いた短編小説は、人間だけで書いた作品よりも創造性や文章の質などで高く評価されました。特に、もともとの創造性が比較的低かった参加者ほど、AIの恩恵を受けていました。
一方で、興味深い問題も見つかっています。
AIを利用した作品同士は、互いに似た内容になりやすかったのです。つまり、一人ひとりの作品はよくなっても、多くの人が同じAIを使うことで、社会全体ではアイデアの多様性が失われる可能性があります。
別の研究でも、ChatGPTを利用した人は、AIを使わない人や通常のウェブ検索を利用した人より創造的なアイデアを生み出しました。ただし、AIは特に「まったく新しい発想」というより、既存の要素を組み合わせた漸進的な新規性を生み出す場面で有効だったと報告されています。
AIは創造性を高める可能性を持っています。
しかし、AIに頼れば頼るほど創造的になる、という単純な話ではありません。
AIの答えを最初に見ることの落とし穴
AIには、もう一つ注意すべき点があります。
それは、AIが提示したアイデアが、人間の思考の「出発点」になってしまうことです。
たとえば、新しい企画を考えるとき、最初にAIへ
「アイデアを10個出してください」
と尋ねたとします。
AIはすぐに案を提示してくれます。
しかし、その瞬間から私たち自身の思考も、その10個の案を中心に動き始める可能性があります。
本来なら自分では思いついたかもしれない別の方向性が、AIの回答によって見えにくくなるかもしれません。
これは、AIが悪いということではありません。
問題は、AIを思考のどの段階で使うかです。
まず人間が考え、いったん離れる
ここで、無意識思考の考え方が役立ちます。
無意識思考では、問題について必要な情報を得たあと、いったんその問題から注意を離れることに注目します。
創造性研究では、問題から離れた時間のあとに、新しい発想が生まれやすくなる「孵化効果(インキュベーション効果)」が知られています。
近年のメタ分析でも、問題からいったん離れることが創造的課題の成績に一定のプラスの効果を持つことが報告されています。ただし、その効果は課題や条件によって異なります。
重要なのは、
考えないこと=何もしないこと
ではないという点です。
まず問題について考える。
必要な情報を集める。
そしていったん別のことをする。
そのあと、もう一度問題に戻る。
これは、私が無意識思考について紹介している
「考える → いったん離れる → もう一度考える」
という流れです。
AIを使うなら、「人間の思考のあと」にする
この考え方をAI時代に応用すると、一つの使い方が見えてきます。
たとえば、新しい企画を考える場合です。
1.まず自分で考える
最初からAIに答えを聞かず、自分なりの案をいくつか考えます。
完成したアイデアである必要はありません。
疑問、違和感、思いつき、連想などをメモしておくだけでもよいでしょう。
2.いったん問題から離れる
散歩をする。
別の仕事をする。
お茶を飲む。
睡眠をとる。
問題に直接注意を向けない時間を作ります。
3.もう一度自分で考える
問題に戻り、新しく浮かんだことを書き出します。
最初とは違う視点が見えてくるかもしれません。
4.そこでAIを使う
最後にAIへ、
「別の視点はありますか」
「反対意見を挙げてください」
「この案の弱点を指摘してください」
「まったく違う立場から考えてください」
などと尋ねます。
AIを答えを出す機械ではなく、思考を広げる相手として使うのです。
「人間 → 無意識 → AI → 人間」という思考法
これからの創造的な仕事では、
人間 → AI
という単純な関係ではなく、
人間 → 無意識 → AI → 人間
という流れが有効になるかもしれません。
まず人間自身が問題に向き合う。
いったん問題から離れる。
そのあとAIから別の視点を得る。
最後に、人間が判断する。
ここで重要なのは、AIを「最終決定者」にしないことです。
AIは大量の情報を組み合わせ、さまざまな候補を提示できます。
一方で、
- 何を面白いと感じるか
- 何を大切だと感じるか
- どの案を選びたいか
- その案にどのような意味を与えるか
といった判断には、人間自身の経験や価値観が深く関わります。
AI時代だからこそ、「考えない時間」が重要になる
生成AIは、私たちが考え始める前から答えを提示してくれます。
だからこそ、AI時代には意識的に
AIを使わない時間
を作ることも重要になるのではないでしょうか。
すぐに答えを検索する。
すぐにAIに質問する。
すぐに要約してもらう。
それは便利です。
しかし、便利さによって失われるものもあるかもしれません。
問題を自分の中に持ったまま過ごす時間。
ぼんやり考える時間。
別のことをしている間に、考えがつながる時間。
こうした時間は、AIが高度になるほど、むしろ人間にとって価値を持つ可能性があります。
AIと競争するのではなく、役割を分ける
「AIと人間のどちらが創造的か」という議論は、今後も続くでしょう。
しかし、実際の仕事では、どちらが勝つかを決める必要はありません。
重要なのは、
AIには何を任せ、人間は何をするのか
を考えることです。
AIに大量の候補を出してもらう。
人間はそこから違和感を見つける。
問題から離れる。
新しいつながりを待つ。
またAIと対話する。
そして最後に人間が選ぶ。
AIと人間を競わせるのではなく、それぞれの特徴を活かして思考を組み立てる。
これは、AI時代の「Third Thinking」の一つの形になるのかもしれません。
まとめ
生成AIは、人間の創造性を支援する強力な道具です。
一方で、AIから提示された案に頼りすぎると、多くの人のアイデアが似てしまう可能性も指摘されています。
だからこそ、
考える → いったん離れる → AIを使う → もう一度人間が考える
という使い方を試してみる価値があります。
AIが多くの答えをすぐに提示してくれる時代だからこそ、
答えをすぐにもらわない時間
が、人間の創造性にとってますます重要になるのかもしれません。
関連する読みもの
ここには、
- 「無意識思考と創造性」
- 「無意識思考とは」
- 『Third Thinking』
- 「直観と論理、どちらを信じる?」
への内部リンクを置くのがおすすめです。
参考文献
Doshi, A. R., & Hauser, O. P. (2024). Generative AI enhances individual creativity but reduces the collective diversity of novel content. Science Advances, 10.
Lee, B. C., & Chung, J. (2024). An empirical investigation of the impact of ChatGPT on creativity. Nature Human Behaviour, 8, 1906–1914.